共創イメージコロナ禍により、小売風景はすっかり変わってしまいました。2020年8月13日付の繊研新聞には「日本ショッピングセンター協会が7月に発表した昨年の国内SC総数は3209施設で、18年に比べて11施設減った。総売上高(推計)も前年比2.2%減の31兆9694億円。SC総数と売上高が前年割れとなったのは初めてだ」という記事が掲載されました。

夏のこの時期になると、毎年繊研新聞からは「全国主要SCアンケート」が発表されます。19年からのダウントレンドに追い打ちをかけたのがコロナ禍による3密回避、外出自粛、在宅勤務などの影響です。ファッション、飲食店が軒並み退店してしまう環境下で、デベロッパーにとってどのようにテナント誘致したらよいか悩みはつきません

つい半年前まで人手不足で出店を躊躇していたテナントが、今度はコロナ禍で人の流れが変わり、出店判断を保留しているという話もよく聞きます。さらに、リアル店舗での集客が難しくなったのでEコマースに軸足を移す企業も増えてます。

このような背景からリーシング業務も、これまでの勘と経験と人脈だけででテナント誘致するのが益々困難な時代となってきています。世の中の動きはDX(デジタルトランスフォーメーション)と叫ばれていますが、リーシング業務の現場ではアナログ(手作業)でアナクロ(時代に逆行)した状況が続いています。

デベロッパーとテナント双方でCX(顧客体験)を共有する

「共創型リーシング」はデベロッパーとテナント双方が、デジタル技術を駆使してCX(顧客体験:Customer eXperience)を共有しようという手法です

"SNSデータ"と"人流データ"、"居住者クラスタデータGeodemo"などを利用して、その立地には「どんな人たちが住んでいるのか」あるいは「どんな人たちがやって来るのか」を明らかにするリーシング手法です。これらのデータを目的に合わせて高速で可視化し、共有することによって合意形成のスピードアップを実現します。

これまで、顧客体験の可視化手法の定番といえばグループインタビューやアンケート調査でしたが、"SNSデータ"、"人流データ"などの生活者データ(ライフログデータ)は新しいニーズやウォンツ情報の宝庫です。これらのデータとその分析結果をデベロッパーとテナント双方で共有しながら、テナントリーシングのための仮説やアイデアを導き出すのが「共創型リーシング」の特徴です。

SNSや人流データのリーシング業務への活用事例はまだ少数ですが、現在のリーシング業務を大きく変革するポテンシャルがあります

フォロワーの世界観を可視化する

Instagramのユーザーが普段からどんな写真をとってどんなことをつぶやいているかという情報を大量に集めて、フォローしているブランド単位でディープラーニングで解析してみると、すぐには言語化しづらいブランドの世界観を可視化することができます。さらに、複数のブランドの世界観のつながりを可視化していくことで、それぞれのブランドの持つ世界観をより立体的に理解することもできます

例えば、スターバックスの世界観と類似する世界観を持つスニーカーブランドはどんなブランドでしょうか?私たちと東京大学山崎研究室の共同研究の結果、スターバックスとコンバースの世界観が類似していることが明らかになりました。このような世界観の関係性を SNS の分析から明らかにすることができます

 

スターバックスとコンバース

 

世界観からテナントを誘致する

これまで店舗開発者の間ではこのように世界観が重なるブランドのことを「お友達ブランド」と呼んでいました。共通の世界観を持つ顧客を共有しているので、コーディネイトして利用される可能性の高いブランドといえるでしょう。

SNS のデータを解析することによって、ファッションなど特定の分野の専門家でないリーシング担当者でもターゲットとする顧客が好むテナントの組み合わせを検討することができるようになります

インターネットで簡単に買物することができる現代では、安さや便利さ、おもしろさ、流行だけでわざわざリアル店舗に出かける動機にはなりません。それらの要素が複雑に絡み合い、その場でなければ味わえない人やモノ、サービスとの出会いがあってはじめてでかける動機となります。世界観を可視化することにでリーシングの可能性を大きく飛躍させることができます。

共創型リーシングの特徴

「共創」とは、様々な利害関係者がお互い協力し合って新しい価値を創造する作業と定義されています。お互い協力し合うには、そこに情熱を注ぐなにかがなくてはなりません。Instagramは、現実も空想も含めてブランドの世界観を共有することができる便利なSNSです。共通の世界観を持つフォロワーを元に、ブランド間の関係性を可視化するとこうなります。

 

BEAMSネットワーク

これはBEAMSを中心とした例ですが、"VANS"や"Stussy"のようなストリートカルチャーと"TOGA ARCHIVES"のようなアバンギャルドなコレクションブランドの間に位置しているのは納得感があると感じます。

このようにSNSから可視化されたブランドの世界観をデベロッパーとテナント企業が共有し、その立地にはどのような需要があるかについて意見交換することができれば、テナント誘致の合意形成の可能性は高くなります

プログラムの世界では、初めから完璧な設計図を描かずに、市場のフィードバックを高速で取り込みながら柔軟に開発する手法「アジャイル」が主流となっています。このアジャイルな開発が可能となった背景は、すでに膨大なソフトウェア資産が世の中にあり、開発者はその資産を活用して試作品を素早く作り、仲間や顧客と共有しながらデザインしてゆくことが可能になったからです。デザインのプロセスとしてあらかじめ不確実性を前提にし、変化への対応を想定しているところがポイントとなります

「共創型リーシング」の手法もこのアジャイルの発想が生かされています。デベロッパーが提供するコンセプトだけでテナントを誘致するのでなく、その立地や場所、施設が醸し出す将来性・世界観をあらかじめビッグデータから可視化し、その可視化されたイメージを共有しながら、合意形成を促す手法が「共創型リーシング」となります。

[参考記事]アジャイルな商業施設・店舗開発手法

実証実験のお知らせ

現在、SNSから抽出したブランドの世界観をもとにテナントリーシングのプランを検討する「共創型リーシング」の実証実験参加企業を募集しています。キュレーターと呼ばれるジオマーケティングのコンサルタントと共に、情報を可視化・共有しながらテナントをリーシングするプロジェクトです。

オンライン説明会を随時開催しており、参加者登録をいただけば全国どこからでもご参加が可能ですのでお気軽にご参加ください

実証実験バナー

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